A.屋号を勝手に表示されることを「法的に」阻止できるかについては下記の通りとなります。
① 商標権侵害を主張できるか?
⇒ 難しい。
商標権は商品やサービスの名称としての呼称を独占できる権利であるところ、
SNSに一般人が感想や口コミとして商標を表示する行為は対象にはなりません。
たとえば「東京ドーム前で待ち合わせてます」「横浜アリーナの横にあるお店で
ご飯を食べてます」という投稿をする際に、東京ドームや横浜アリーナの商標権を
侵害しているかというと、それは全く当たりません。
したがって商標権侵害を理由に投稿取り下げを依頼するのは難しいと考えます。
② 営業妨害を主張できるか?
⇒ 難しい。
日本国憲法で「表現の自由」が保障されているため、基本的に表現活動は
最大限保障されます。もちろんその投稿によって営業妨害やプライバシー侵害が
生じた場合には問題になり得ますが、基本的に企業活動は表現活動より下に
位置づけられていて、よっぽど事実無根なネガティブな噂話を流されたり、
スタッフのプライバシーを侵害するような投稿をされたりしない限りは、
権利侵害は認められません(「受忍限度論」という考え方で企業は社会の公器
であるため「一般人からの感想は良いことを書いてもらうこともあるのだから、
悪いことを書かれたぐらい甘受せよ」というものです。)。
確かに、レストランについて「すごく美味しかった!」と書く人もいれば
「期待外れだった」と書く人もいるので、私たちは客観的な評価について
耳にすることができます。書籍について「すごくおもしろかった!」という
人もいれば「新鮮味はなかった」と酷評する人もいて、書評は成り立ちます。
結婚式も同様で、プラスもマイナスもどちらの意見も表現する自由を認める
べきだ、というのが法律の考え方と言えます。
③ では「やめてくれ」と言えないのか?
⇒ NO。言うのは自由です。
一般人に「表現の自由」が認められている一方で、企業側から「やめてくれ」と
言うのも自由です。「法的な根拠」がなくたって、たとえば「そういうあだ名で
呼ぶのはやめてください」とか「職場でその話をするのはやめてください」と
お願いするのは自由であるのと同じで、企業から個人のSNSの書き込みに対して
「それはやめてください」と依頼をすること自体は問題ありません。
たとえば以下のような伝え方が考えられます。
(下記は一例として、お客様とのトラブルで既に返金済みで一旦解決している
前提の例文です。実態に即して文章は検討をお願いいたします。)
「**に投稿されている内容について、弊社のサービスがお客様にご満足いただけ
なかったことは大変反省し心からお詫びするものでありますが、すでに弊社は
お詫びをし、**代を返金しております。
このような中で、未だにこうして具体的な店舗名を示した上で表現活動を継続
されることは弊社の営業妨害に該当し、違法性が生じる可能性があり、現在、
本投稿がこれに該当するかどうかを法律の専門家に相談をしているところです。
弊社としては法的措置等の大事に発展することは全く望んでおりませんが、
専門家の判断次第ではそうした動きを取らざるを得ません。
繰り返しとなりますが、すでにお客様は返金を受領されており、それによって
本件については解決したものと認識しておりますので、こうした投稿を継続
されることはその合意に反するものであり、投稿を取り下げていただくことを
強くお願い申し上げるものです。
ご理解、ご協力の程よろしくお願いいたします。」
ただ、このような通知をしたことで「施設側がこんな脅しをかけてきた」などと
さらに投稿を増やす危険性は否定できない(そしてそれも法的にはある一定までは
「表現の自由」が認められる)ので、難しい判断になろうかと思います。
ご参考までに、もし私が判断するとすれば、施設名の表示程度であれば黙して
語らずで、スタッフの氏名まで表示し始めたら立ち向かう、
という軸で動くかと思います。
.
コメント