1.テーマ
何らかの行為により(または適切な行為をしなかったことにより)他人に損害を与えてしまった場合には、原則として損害を与えた者は損害を賠償する責任を負います。この責任には『債務不履行責任』と『不法行為責任』とがあり、前者は「新郎新婦と会場」のように契約関係の存在を前提にいずれかが契約違反をした場合の賠償責任を、後者は「参列者と会場」のように直接契約関係のない者同士における賠償責任を指します。
2.契約関係のない者に損害を与えてしまった場合の責任
商法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。これが「不法行為責任」と呼ばれるもので、ブライダルの現場では、スタッフが「ワインぶっかけ」等のアクシデントで参列者の衣類を汚してしまったり、衣裳の搬送中に交通事故を起こして歩行者に怪我をさせてしまったりした場合などに問題となります。
この場合、衣類を汚された参列者は当事者であるスタッフに対して、そして怪我を負わされた歩行者は運転していたスタッフに対して、不法行為責任を理由に、それぞれ生じた損害についての賠償を請求することができます。
一方で、これら被害者は、スタッフを雇っている雇用主(または業務を委託している事業主)に対しても、同じように損害の賠償を請求することができます(民法715条)。これに応じなければいけない雇用主側の責任を「使用者責任」といいます。
スタッフを雇ってビジネスをしている雇用主は、スタッフを働かすことによって利益を得ているのだから、そのスタッフが生じさせた損害の賠償責任も負いなさい、という考え方に基づく制度です。
この点、民法は雇用主が「相当の注意をしたとき」等には使用者責任を負わない余地を残してはいますが、過去の判例を見てみると、
・業務時間外の飲み会でのハラスメント行為
・業務時間外に社用車を私用で運転していた際の交通事故
という「業務時間外」の事例においても使用者責任が認められた例がありますので、「仕事中に」スタッフが発生させた損害については、まず使用者責任が認められると考えて差支えないでしょう。
なお、スタッフの代わりに被害者に賠償をした雇用者等は、後からスタッフに対してその負担分の支払いを求めることができます(求償権)。使用者責任は被害者への賠償の確実性を高めるための制度であり、被害を与えたスタッフを免責するものではない点、誤解のないようご注意ください。
その他、「チャペルの屋根の一部が剥がれ落ちて参列者に怪我を負わせてしまった」または「敷地内の樹木が倒れて駐車中の自動車を傷つけてしまった」というような、施設の設備等に問題があって他人に損害を与えてしまった場合には、施設を実際に管理・利用している事業者(占有者)が賠償責任を負う、とする規定もあります(民法717条)。
ただ、その者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」には免責され、その場合には代わりに施設の所有者が損害を賠償する責任を負うとされています。
このように、何らかの行為(またはしなかったこと)により、契約関係にない相手に対して損害を与えてしまった場合には、不法行為責任に基づき、その損害を賠償する義務を負うことになります。そしてその義務は直接的に損害を与えた者だけではなく、その者を働かせていた者や、その施設を管理または所有している者が負う場合もあります。
人がやることである以上、アクシデントは付き物です。「いざ」という時の法的責任についてのご理解が深めていただければ幸いです。
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